2021年度の介護報酬改定により開始された科学的介護情報システム(LIFE)は、制度が開始してから1年になろうとしております。うまく運用できている事業所もあれば、導入に消極的な事業所も数多くあります。
ここでは、介護事業所が科学的介護情報システム(以下、LIFE)の導入に消極的な理由について掲載しております。
LIFEは「Long-term care Information system For Evidence(科学的介護情報システム)」の略で、2021年度の介護報酬改定により運用が開始された新しい制度になります。
LIFEを利用される方のADLや認知症の状態、栄養状態、口腔機能など様々な情報をデータベースに登録することで、今後の介護への取り組みに関する提案(フィードバックデータ)が受けられる仕組みになっております。
介護サービスの本来目指しているところは、利用者が望む介護サービスが選択でき、自立を支援していくことにあると考えられております。
これまでの介護業界は、事業所独自の介護サービスの提供を受けることになり、利用者にとっては、そのサービスがどのくらい効果があるのかや、介護サービスでのリスクについても情報がほとんどなく、漠然としたものが多いのが現状でした。
医療業界では、すでに多くの症例や看護記録、臨床結果を記録し、論文などを用いて情報を共有していることが一般的になっております。
LIFEでは、医療業界のような根拠や客観的な情報などのエビデンスを補うことで介護サービスの不透明さを解消させていくことができると注目されております。
■ 利用者が介護サービスを選択できる
利用者がどの介護サービスに適しているかは、なかなか自分では決めることが難しいと言われております。情報においても事業所が提示する内容だけでは、メリットやデメリットの判断が難しく、信憑性がありません。
LIFEによる科学的根拠に基づいた情報は、安心して事業者選びができるだけでなく、利用者がどの介護サービスに適しているかを判断する材料が増えるため、より良い介護サービスが選択できることにつながります。
■ 自立支援に対する効果が期待できる
LIFEには、これまで集められたデータを根拠に科学的に効果が認められた介護ケアができると言われております。
長年の経験や感覚はもちろん大事なことですが、経験の浅いスタッフではどう接して良いのかわからず、自立支援どころか衰弱させてしまうこともあるでしょう。
様々な例を基に利用者の支援が再現性の高いものになれば、重度化防止にも役立つと期待されております。
■ 質の高いサービス提供につながる
事業所の介護サービスは、各々で持つ情報のみで運営されることが多く、成功例も失敗例も参考となるデータは限られたものでしかありません。
LIFEでは、参考となるデータが多数蓄積されており、介護現場にフィードバックすることができるため、根拠に基づいた介護による質の高いサービスにつながります。
現場ごとに異なる対応をしていたところもありましたが、業界全体でのガイドラインができるため、介護スタッフにとっても働きやすい環境と言えます。
LIFEの導入は、今後の介護事業の課題をクリアにしていく上で欠かせない存在であることは言うまでもありませんが、2022年3月に行われた介護報酬改定検証・研究委員会でLIFEの課題も明らかになってきました。
2021年9月時点では、LIFEデータの登録状況などについて60人以上の利用者登録をしている事業所・施設は27.0%、10人未満の利用者登録をしている事業所・施設は17.3%と低い結果となりました。
事業者がLIFEを活用して良かった点としては、利用者の状態や課題の把握と、アセスメントの方法や頻度の統一が挙げられます。特にADL(日常生活動作)や行動・心理症状によるLIFE活用の存在は大きかったようです。
一方でLIFEに関しては、アセスメントや記録するためのデータ入力に時間を割かなければならないことが挙げられており、職員の負担が大きいことが各事業所で浸透していかない理由となっているようです。
LIFEはこれからの介護事業を支えていく上で必要とも言えるシステムです。しかし介護事業所も従業員の負担が増加するのであれば、介護離職につながる恐れもあるため、導入には慎重になっているようです。
一般的な企業ではペーパーレス化が進んでおり、業務をIT化させることで作業の効率化を図ろうと努力しております。差し迫る2025年問題や2040年問題と向き合うためにも、LIFEによるサービスの質と業務効率の向上を成功させていく必要があります。