認知症は心身の機能が低下し、介護が必要とされる症状のひとつです。
ユマニチュードは、認知症をはじめ、あらゆる介護の場面で活かすことができる技法です。
認知症の介護をしている場面では、突然騒ぎ出したり、虚をつく行動に出られたりと、献身的に介護をしていても、どうしていいかわからず、苛立ちはじめてしまうこともあると思います。
それは介護をしている側が、親身になっていないからではありません。
介護をしている側の気持ちが、認知症の方に理解できる表現でないことが原因であるからです。
ユマニチュードは、患者を対象としているのではなく、人と人とが良い関係を築くことを軸に考えられています。
寝たままの病人などの体を拭き取る行為は、「寝たきり」を助長していませんか?
徘徊は転倒の危険性があるからといって、身体拘束や向精神薬の投与が本当に必要でしょうか?
私たちが良かれと思って行っているケアは、高齢者の健康維持を害した行動なのかもしれません。
ユマニチュードではそれらを否定し、改善できる技法といわれています。
ユマニチュードという技法は、
「顔の正面から同じ高さで目を合わせる」
「何をしているか実況するように伝える」
「腕を上からつかまず、必ず下から支える」
などの確立された具体的な技術と、
「ケアする人とは何か」
「人とは何か」
という哲学から成り立ちます。
※ 著書:「ユマニチュード」という革命 より抜粋
ユマニチュードのすべてのケアは、以下の4つの要素と、5つのステップを用いて行います。
◇4つの要素
「見る」 | 『 顔の正面から同じ高さで目を合わせる 』 長いあいだ、瞳と瞳を合わせるという行為が、ポジティブさや愛情を表現します。 |
「話す」 | 『 何をしているか実況するように伝える 』 自分の動作や行動を実況することで、理解力を深めます。 |
「触れる」 | 『 腕を上からつかまず必ず下から支える 』 ゆっくりと、やさしく触れることで、愛情表現が生まれます。 |
「立つ」 | 『 長くかかっても立つことを目標にする 』 立つ行為は身体機能の活発化だけでなく、人間であることの尊厳を自覚する手段でもあります。 |
◇5つのSTEP
▼ STEP1 | |
出会いの準備 | 声掛けをしながら患者のプライベートな領域に入る許可を得ます。 ①3回ノックして3秒待つ ②再び3回ノックして3秒待つ(反応があれば③へ) ③1回ノックして室内に入る 何回もノックを繰り返すことで、相手の覚醒水準を徐々に高めます。 |
▼ STEP2 | |
ケアの準備 | ケアについて同意を得るプロセスです。 ①正面から近づいて目と目を合わせる ②目が合ったらケアの話しはせずにポジティブな言葉で話す ③「見る・話す・触れる」の技術を用いて3分以内に合意がとれない場合ケアは後にする 「入浴」という言葉を嫌がる場合には「さっぱりしましょうか」などに置き換えてみる。 |
▼ STEP3 | |
知覚の連結 | 「あなたを大切に思っている」というメッセージを調和を持って発します。 ここでのポイントは、話し方と行動が矛盾しないことです。 優しく話しながら手を掴む、というような行動は決してしてはいけません。 笑顔かつ穏やかな声で話し、優しく触れることで、ケアを受ける方は緊張がやわらいで心地よく感じられます。 |
▼ STEP4 | |
感情の固定 | 「この人は優しい人だ」という感情を覚えてもらうことが大切です。 ①「気持ちが良かったですね」などポジティブに確認する ②「さっぱりしましたね」などポジティブに評価する ③「とても楽しい時間でした」など共に過ごしたことを評価する 感情に伴う記憶は、認知症が進行した方にも残るため、次回のケアが運びやすくなる可能性が高くなります。 |
▼ STEP5 | |
再会の約束 | その場から離れる前に「また来ますね」と約束をします。 約束した内容を覚えていなくても、これまでのポジティブな印象が残っていれば「優しくしてくれた人がまた来てくれる」という喜びや期待感が高まるため、次回のケアの際に笑顔で迎えてくれる可能性があります。 |
これまでの4つの要素と5つのステップは、実は赤ちゃんや恋人などと良い関係を築こうとするときに使う技術と同じです。
赤ちゃんや恋人には、当たり前のように自然にできる動作が、高齢者に対してはなかなか自然にこの技術を使えていないだけだと思います。
ケアの対象となる人に「私はあなたのことを大切に思っています」ということを相手が理解できるようになれば、介護者の負担感が大幅に軽減することになるでしょう。